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一歩ずつ(38)
         岩堀美雪(福井県)     

4年生の時から担任したK男さん。

いつも眉間にしわを寄せていて、自分から友達に話しかけることは少なかった。
手つなぎ鬼ごっこをすると、最後まで逃げ延びていた。
私の目か見ると、足が速くて逃げ延びたのではなく、
鬼になった子が彼を真剣に捕まえに行ってないように見えた。

「二人組になりましょう。」というと、必ず最後の方まで残った。
表立った発言は一切なかったが、
みんなが心の底で彼とは一緒になりたくないと思っていると感じた。


5年生の秋になった。
秋の遠足はサイクリング遠足だ。

春の自転車教室の時、K男さんは、自転車に乗れなかった。
「夏休みには練習しておこうね。秋にはサイクリング遠足もあるから。」
「はい。」

夏休みが終わり、
遠足があと2週間後ぐらいに迫った頃、再び彼に聞いた。
「自転車に乗れるようなった?」
彼は、自信なさそうに答えた。
「はい。70mくらいなら・・・。」
直感で、まだ乗れてないと分かった。
どうしよう。学校に持ってきて練習することも提案したが、
いい返事は返ってこなかった。練習している姿が他の子の目に触れるのを
嫌がっているようだった。

そうしているうちにも遠足の日は刻々と迫ってくる。
あと一週間となった時、
「よしっ、今日先生、K男さんの家にいくから。一緒に練習しよう!」
と言って、家までついて行った。

「よーしっ、行くよーっ!」
K男さんの自転車の後ろを押さえながら、
「もう少しハンドルを真っ直ぐ!そこで下見ない!足をペダルから離さない!」
叫びながら走った。
家の後ろの広い農道を何往復も走った。
私の息がハアハアになり、辺りが暗くなり始めた頃、ようやく、
「おっ、いいぞ!今何も押さえてないのに一人で20mは進んだよ!」
となり、その距離がどんどん延びてきた。

そして、
とうとう一人で乗れるようになった。
「やったー!かんばったねっ。」
「はい。」
K男さんはうれしそうだった。
私自身も乗れてよかったと思った。


迎えたサイクリング遠足。
往復40キロの道のりをみんなで自転車に乗って走った。
「自転車に乗れるようになってから一週間で、K男さんは走りきれるだろうか。」
という心配もあった。
途中一度だけ路肩の段差があるところで転んだものの、
あとは、みんなと一緒に走り続けた。
帰りは、みんなより少し遅れて私と二人で走ったが、
それでも学校までがんばりとおした。
「よくがんばったね!」
彼のがんばりに私は満足していた。


数日後、隣のクラスの担任のS先生が、
「昨日の夜、PTAの部会でK男さんのお母さんと会ったよ。私、『この間の
サイクリング遠足がんばりましたね。最後まで自転車に乗れてよかったですね。』
って言ったの。」
と言った。

「うん、うん。K男さんはがんばったから満足してましたか?」
そう言った私にS先生は続けた。
「帰ってくるなり、『あー、疲れた。サイクリング遠足なんて面白くなかった。
もう行かない。』って言ってたらしいよ。」

「えっ・・・」

言葉が出なかった。

練習して自転車に乗れたこと。
サイクリング遠足で最後まで走れたこと。
自信もついて、喜んでくれてると思ってた。

けれど、それは、教師の傲慢さだった。
いくら自転車に乗れるようになっても、
遠足に行って、心から楽しく遊べる友達がK男にはいなかったのだ。
そんな状態での40キロは苦痛以外のなんでもなかったに違いない。

そんなことにも気付かないで、
一人満足していた自分が本当に情けなかった。


程なくして、
K男が朝から学校に行きたくないと言っているという連絡が入った。

今まで頭痛や腹痛で月に一回ぐらい休むことはあった。
たが、今回は違った。
「みんなが僕のことを嫌ってる。もう学校なんか行きたくない。」
という。

教頭先生に事情を話して、朝一番にK男の家に向かった。
お母さんと二人で説得した。

最初は頑として「行かない。」の一点張りだった。
時間は刻々と進んでいく。

長い説得の結果、
「保健室なら行く。」
ということになった。

K男さんを保健室に連れて行き、
職員室に戻ると、3時間目の終わり頃だった。

「自習していた他の子たちになんと言って説明しようか・・・。」
私は迷っていた。

「小さい頃手術をして、そのことでお母さんと話をしていたの。と、
その場をごまかすか、ほんとのことを言おうか迷ってるんです。」
そう言った私に教頭先生は言った。

「失敗してもいいじゃないか。」

気持ちは決まった。
「本当のことを話そう。」

4時間目が始まった。
「今先生は、K男さんの家に行ってきました。それはK男さんが
『みんなが自分のことを 嫌ってるから学校に行きたくない。』と言ってる
からです。」

全員の顔がこわばり、
一瞬にして教室の空気が凍りついた。


「このクラスを担任してから、みんなは口には出さないけど、K男さんのことを
心の中で嫌ってるように見えたの。先生の言うこと間違ってるかな?間違ってない
という人は手を挙げてくれる?」

唯一K男に対して普通に接していたS男以外、22人が手を挙げた。
「そう・・・。正直に手が挙がったのはうれしいよ。でも、K男さんも
小さい頃手術してあんまり体が強くないのに、夏休みの水泳練習がんばって
たよねぇ。それに、この前のサイクリング遠足だって、自転車に乗れてまだ
一週間しか経ってないのに最後までがんばりとおしたよね。」
と言った。

しかし、あとの言葉が続かなかった。
担任が無理に、仲良くしてあげてねと頼んでも、それは根本的な解決には
ならないことは分かっていた。

次なんて言おう。
言葉が見つからない。


思わず、
「どうするといいかなぁ・・・。」
と、ため息をつきながら独り言を言って下を向き、教卓を見つめた。

解決策は何も見つからない。
暗く重い時間が流れると思った。



そして、
何気なく顔を上げると・・・

そこには、

そこには、

子どもたちの真っ直ぐな手が、

何本も何本も挙がっていた。


クラスで一番やんちゃなY男さんが言った。
「消しゴムなんかを忘れて困っていたら、進んで貸してあげたいです。」

「休み時間一人でいたら、一緒に遊ぼうと誘いたいです。」

次々発表が続く。

ある子は、こんなことを言った。
「私は、普通の友達みたいに接したい。悪いことは悪いと言いたいです。」


「うん、うん・・・。」
子どもたちの発表を聞きながら涙がボロボロ出た。

「今日はこのクラスを担任して一番うれしい日です。みんなの気持ちが
とってもうれしいです。でも、今ね、K男さんね、保健室にいるの。」
私が言い終わらないうちに、

「先生、教室で待っててください!僕らが行って連れてきますから!」
そう叫んで、全員が教室を飛び出していった。


そうはいうものの、
さっきまであれほど嫌がっていたK男が教室に戻ってくるのか。
心配して3階の階段と教室の間を行ったり来たり・・・。


しばらくして、ガヤガヤという声が聞こえたので、慌てて教室に戻る。
そして、クラス全員が教室に戻ってきた。
K男を先頭にして。


その日から、休み時間にK男を積極的に誘い、一緒に遊ぶ姿が見られる
ようになった。また、授業中に私が言った言葉に対して、
「うん、そうやなあ。」と独り言が聞こえる。誰かと思ったらK男だった。
「先生のクラスのK男さん、明るくなったねぇ。顔つきが前と全然違う。」
と他のクラスの先生から言われるようになった。
いつしか、K男の額のしわは消えていた。


そして、3学期の終わり、
「5年生の10大ニュース」を書かせた時のこと。
「先生、出来ました!」
と言って持ってきたK男の紙には、


『ベスト1 自転車に乗れるようになったこと』

『べスト2 サイクリング遠足を行けたこと』

の文字が輝いていた。





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【2006/10/09 01:06】 | 小学校
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